【連載】世界の療法アプローチ|カテゴリー:症状とケア(便秘)
パーキンソン病では、進行とともに便秘に悩まされる仲間が少なくありません。「長く薬を続けているから腸が弱ったのか」「体を動かすことが減ったからか」——どちらも関わりますが、便秘には、もっと根本的な原因があります。ここでは原因を正しく整理したうえで、毎日の暮らしのなかで確かに取り組める改善の方法を、できるだけ深くお話しします。
なぜパーキンソン病で便秘になるのか — 三つの原因が重なる
便秘は、「病気そのもの」「薬」「運動・食事の減少」という三つの要因が重なって起こります。この順序が大切です。
① 最も大きな原因は、「腸の神経」がおかされること
パーキンソン病は脳の病気と思われがちですが、異常なたんぱく質(αシヌクレイン)は、早い時期から腸の壁にある神経(腸管神経系)にもたまります。腸を動かしているのは、この腸の神経と、腸と脳をつなぐ迷走神経です。ここがおかされると、腸のぜん動運動そのものが衰え、便が進むのに時間がかかるようになります(大腸通過遅延型)。
便秘が手のふるえより何年も前から現れることが多いのは、これが理由です。薬で腸が弱る前に、病気そのものが腸の働きを弱めている——ここが便秘の根本にあります。
② 「出口」の問題 — うまく出せない
もう一つ、いきむときに肛門まわりの筋肉がうまく緩まず、連携できないこと(骨盤底の協調不全)も起こります。便は下りてきているのに、出口でとどまってしまうかたちです。体のこわばり(固縮)や姿勢の影響も加わります。「進みが遅い」と「出しにくい」が、同時に起きることも多いのです。
③ 影響を重ねる要因 — 薬・運動・食事
- 薬:とりわけ抗コリン薬(ふるえに使われることがある薬)は、腸の動きを強く抑えます。レボドパやドパミン作動薬も、動きをやや緩やかにすることがあります。鉄剤・一部の痛み止め・一部の抗うつ薬も便秘を強めます。(自己判断で中止せず、主治医に相談を。)
- 運動量の低下:体を動かさないと、腸の動きも鈍ります。進行とともに、この影響も加わってきます。
- 水分・食事の減少:飲み込みにくさや食欲の低下で、食物繊維も水分も足りなくなりがちです。夜のトイレを避けようと水分を控える人も多く、これが便を硬くします。
「薬のせいか、運動不足か」とよく問われますが、答えは「そのどちらも関わり、それ以上に病気そのものが関わっている」。そのため対策も、一つに頼らず、いくつも重ねていくことが要になります。
便秘を放置できない、もう一つの理由
つらさだけの問題ではありません。便秘は、レボドパの効き目を不安定にします。腸の動きが滞ると薬の吸収が遅れ、効果のあらわれ方にムラが出ます(オン・オフの変動が大きくなります)。進行すれば、腹部の張り・食欲の低下・宿便、まれに腸閉塞に至ることもあります。便通を整えることは、薬を安定して効かせることにもつながります。便秘への対策は、丁寧に続ける値打ちがあります。
徹底改善① 食事 — 「水分」と「発酵・繊維」
- 水分は、日中にしっかり:便を軟らかく保つ土台です。夜のトイレが心配なら、朝から昼に多め、夕方からは控えめに。起きぬけの一杯の水、または白湯が、腸を目覚めさせる合図になります。
- 食物繊維は「水溶性」も意識して:野菜・海藻・豆・大麦・果物を。通過が遅いときに不溶性の繊維ばかり増やすと、かえって張ることがあります。水分とともに、水溶性の繊維(海藻・オクラ・大麦・果物など)も取り入れましょう。
- キウイ・プルーンは、便通を助ける果物:どちらも便通の改善が確かめられている果物です。キウイなら一日一〜二個、プルーンなら一日数個を、毎日の習慣にしましょう。
- 発酵食で腸内細菌を育てる:味噌・納豆・ぬか漬け、そして本物のキムチ。乳酸菌と食物繊維が便通を助けます(調味料やキムチの選び方は前回の食事の記事にまとめています)。
- 良質な油を味方に:オリーブオイルなどの良質な油を適量。腸のすべりを助けます。
徹底改善② 体を動かす — 腸もまた、運動で動く
- 歩く、体をひねる:ウォーキングや、椅子に座って上体を左右にひねる運動は、腸へのよい刺激になります。無理のない範囲で、毎日少しずつ。
- お腹のマッサージ:あお向けになり、おへその周りを「の」の字(時計回り)に、右下から右上、左上、左下へと、やさしく円を描きます。パーキンソン病の便秘に改善が報告されている方法です。一日一〜二回、数分ずつ。
- お腹をふくらませる呼吸:深い腹式呼吸で横隔膜を動かすことも、腸への刺激になります。
徹底改善③ 上手に出すための工夫 — タイミングと姿勢
- 朝食後が、いちばん自然なとき:食べ物が胃に入ると腸が動き出す反射(胃結腸反射)が働きます。朝食後の十五〜三十分は、便意がなくても一度トイレに座ってみましょう。
- 便意を我慢しない:先送りにすると、水分が抜けて便が硬くなります。
- 前かがみの姿勢と、足台:便座に座り、足元に台を置いて膝を股関節より高くし、上体を少し前へ傾けます。直腸と肛門の角度がまっすぐになり、強くいきまなくても出やすくなります。
- 強くいきまない:息を止めて力むより、口から細く息を吐きながらお腹に軽く力を入れるほうが、安全でよく出ます(血圧の急な変動も防げます)。
徹底改善④ それでも難しいときに — 薬は「頼りきらず、最も安全なものを最小限」
ここまでの生活の工夫が土台です。薬はあくまで補助、頼りきらないことが大切です。
- まず、便秘を招いている薬を見直す:抗コリン薬などが原因になっていることがあります。減らせないか主治医に相談を(パーキンソン病の薬は自己判断で中止しないこと)。
- 薬の助けがどうしても必要なときは、主治医に相談を:そのうえで、安全性の高いものを、適量だけ使います。刺激の強いものより、体にやさしく、くせになりにくいタイプを選ぶのが基本です。
- 刺激の強い下剤の常用は避ける:よく効くタイプほど、続けると効きにくくなり、かえって薬に頼りがちになります。使うとしても一時的に。
- 穏やかな方法として、整腸剤・発酵食:乳酸菌・ビフィズス菌などの整腸剤や、日々の発酵食で便通が整うことも多くあります。まず試したい方法です。
どの薬も、使うときや変えるときは、主治医・薬剤師に相談を。
こんなときは、早めに受診を
- 数日以上まったく出ず、強い腹痛・吐き気・嘔吐・お腹の張りを伴う(腸閉塞や宿便のおそれ)
- 便に血が混じる、急な便通の変化、原因の分からない体重の減少
こうしたときは自己流で粘らず、医療機関へ。
まとめ
- パーキンソン病の便秘は、①病気そのものが腸の神経をおかす(最大の原因)/②出口の問題/③薬・運動・食事の影響が重なって起こります。「薬か、運動か」ではなく、そのすべてが関わります。
- 対策も重ねましょう——日中の水分、発酵食と繊維(キウイ・プルーン)、運動とお腹のマッサージ、朝食後の習慣と前かがみ+足台の姿勢。
- 薬に頼りきらない。必要なときは、主治医に相談して安全性の高いものを最小限に。便秘を招く薬は見直しを。
- 便通を整えることは、レボドパを安定して効かせることでもあります。あきらめず、重ねて続けることが、いちばんの近道です。
免責事項
本記事は情報提供を目的とした連載コラムであり、特定の療法・薬を保証するものではありません。効果や安全性には個人差があります。生活の工夫は自分で始められますが、便秘薬の使用・変更、便秘を招く薬(抗コリン薬など)の調整、強い腹痛・血便などの症状については、主治医・薬剤師に相談してください。
参考にした主な研究・知見:パーキンソン病における腸管神経系のαシヌクレイン病理と大腸通過遅延/骨盤底協調不全(排出障害型の便秘)/McClurgら 腹部マッサージによる便秘の改善/キウイ・プルーンの便通改善に関する臨床試験/Barichellaら 発酵乳・プロバイオティクスによる便通改善(パーキンソン病)。