パーキンソン病と食事 — 腸を整える「和食」を軸に

和食の一汁三菜(ご飯・焼き魚・味噌汁・納豆・ひじき・ぬか漬け)

【連載】世界の療法アプローチ 第6回|カテゴリー:食養生・生活・環境

パーキンソン病と食事を考えるとき、鍵になるのは「腸」です。腸を整えるのに、日本人の体へ無理なく合うのは、昔ながらの和食。ここでは和食を軸に、健康によいとされる地中海式食の良い点も参考にしながら、パーキンソン病と食事の深い関わりを、できるかぎり掘り下げます。「食事の話」と侮るなかれ——ここには、進行と向き合ううえで確かな手がかりがあります。

1. パーキンソン病は「腸」から — 脳腸相関のいま

パーキンソン病は脳の病気と思われがちですが、近年は「腸から始まる病気」という見方が、確かな証拠とともに広がっています。多くの仲間が、手のふるえや動きにくさが出るより何年も、時に十数年も前から、しつこい便秘に悩まされてきました。便秘・嗅覚の低下・睡眠中の異常行動は、運動症状に先立つ「前ぶれ」として知られています。

病気の正体である異常なたんぱく質αシヌクレインは、脳より先に腸の壁の神経にたまり始めます。そして腸と脳をつなぐ迷走神経を伝って、脳へ上っていく——これがいま有力な筋書きです。動物実験では、マウスの腸に異常なαシヌクレインを入れると脳へと広がり、迷走神経を切ると、その広がりが止まったと報告されています。人でも、かつて胃の手術で迷走神経を切った人は、その後パーキンソン病になりにくかったという大規模調査(デンマーク)があります。腸と脳は、想像以上に太い一本の道でつながっているのです。

腸内細菌の乱れが、炎症の火種になる

私たちの腸には、約100兆個ともいわれる細菌がすんでいます。パーキンソン病の人の腸では、炎症を抑える善玉菌——「短鎖脂肪酸」をつくる菌——が減っていることが、世界各地で繰り返し確かめられています。短鎖脂肪酸(とりわけ酪酸)は、ただの老廃物ではありません。

  • 腸の壁のエネルギー源になり、バリアを丈夫に保つ。
  • 炎症を鎮める免疫細胞(制御性T細胞)を育てる

この善玉菌が減ると、腸の壁がゆるみ(“腸もれ”)、本来もれないはずの細菌の毒素(内毒素)が体内へしみ出します。それが慢性的な炎症を招き、やがて脳の免疫細胞(ミクログリア)を刺激して神経の炎症につながる——この炎症が、病気の進行に関わると考えられています。腸を整えることは、便秘対策どころか、炎症の火種を減らす取り組みなのです。

2. なぜ日本人には「和食が軸」なのか

地中海式食は優れた食べ方ですが、そっくり日本人に最適とは限りません。理由があります。

  • 腸内細菌は、その土地の伝統食に適応している:日本人の腸には、海藻を分解できる菌を持つ人が多いと知られています(欧米人にはまれ)。私たちの腸は、海藻・大豆発酵食・魚を中心とした食に、長い年月をかけて“慣れて”きました。
  • 乳製品が合わない人が多い:日本人は乳糖を分解する力が弱い人が多く、地中海式でよく登場するヨーグルト等が体質に合わないことがあります。乳酸菌や発酵は、納豆・味噌・ぬか漬け・本物のキムチから無理なくとれます。
  • 和食は、腸を整える仕掛けの宝庫:発酵食に加え、「発酵性の食物繊維」や「冷やご飯・冷やした芋のレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」は、善玉菌の格好のエサになり、短鎖脂肪酸を生みます。海藻の水溶性繊維も同じ働きをします。
  • 麹という日本の宝:味噌・醤油・甘酒・みりんを生む麹菌は、日本の“国菌”に定められています。発酵は、食材の栄養を消化しやすく変え、抗酸化物質(メラノイジンなど)やうま味まで生み出します。

「地中海式の考え方を、日本人の体に合った和食で実現する」——これが、いちばん続けやすく、理にかなっています。ただし現代の和食には、大きな落とし穴があります(5章)。

3. キムチも、心強い仲間 — ただし「本物」を

発酵の知恵は、日本だけのものではありません。お隣・韓国のキムチは、その美味しさと健康効果が世界中で高く評価される発酵食です。乳酸菌と食物繊維がたっぷりで、日本人の腸にもなじみ、和食の発酵食と同じく腸を整える心強い味方になります。近年は、体内にたまったマイクロプラスチックの排出を助ける働きまで注目されています。

ただし注意も。市販品には、きちんと発酵させずうま味調味料・甘味料・アミノ酸液・保存料などで“それらしく”味付けした「偽物キムチ」が少なくありません。選ぶなら、本当に発酵しているもの——原材料がシンプルで、うま味調味料や人工甘味料に頼っていないものを。手づくりも、きちんと発酵させた一品になります。

4. 参考に、地中海式の“良いとこ取り”— オリーブオイルは「本物」を

和食を軸にしつつ、地中海式の良い点も取り入れましょう。代表がオリーブオイル。良質なものにはオレオカンタールという成分が含まれ、これは痛み止め(イブプロフェン)に似た炎症を鎮める働きを持つと報告されています。青魚のオメガ3(EPA・DHA)、色の濃い野菜やベリーのポリフェノールも、炎症と酸化に立ち向かう仲間です。

ところが——オリーブオイルは世界でもっとも偽物・混ぜ物が多い油の一つとされます。中身が伴わなければ、せっかくの利点も台無しです。本物を選ぶ目安:

  • 「エキストラバージン」+酸度0.8%以下の表示。
  • 収穫年・産地・生産者が具体的(単一産地・搾油年月まで書いてあるほど良い)。
  • 遮光ビン(濃い色)や缶入り。光は酸化を進めます。
  • 有機JAS・DOP/IGPなどの認証があれば一つの安心材料。
  • 味と香り:口に含むと青々しい香り、のどの奥にピリッとした辛み・軽い苦み。これが良質なポリフェノール(オレオカンタール)の証です。
  • 「ピュア」「ライト」表示や極端に安い大容量は精製・ブレンド品のことが多く、良いとこ取りには不向き。加熱しすぎず、仕上げに少量が活かし方。

5. 本物を選ぶ — 現代の和食に潜む落とし穴

「和食が体に合う」といっても、現代の食卓には農薬・添加物・精製・安価な加工が深く入り込んでいます。同じ「味噌」「醤油」でも中身はまるで別物。見分ける目こそ、いちばんお伝えしたいことです。(以下は選び方の一般的な目安です。すでに減塩・たんぱく質制限などの指導を受けている方は、その指示を優先してください。)

味噌 — 「生きている味噌」を

  • 原材料が「大豆・米(麦)・塩」だけ。だし入り・うま味調味料・保存料・着色料が並ぶものは避ける。
  • 「天然醸造」(時間をかけて発酵)を選ぶ。麹の酵素がたんぱく質やでんぷんを分解し、消化しやすく、抗酸化のメラノイジンも豊かに。
  • 「生(なま)みそ」=非加熱なら、乳酸菌や酵素が生きています。原材料に「酒精(アルコール)」とあるものは発酵を止めてあり、菌が働きにくい。
  • できれば国産・非遺伝子組換えの大豆。味噌汁は火を止めてから溶くと、熱に弱い菌と香りが活きます。

醤油 — 「本醸造」を基本に

  • ラベルの「本醸造」を。「混合」「アミノ酸液」は短時間・低コストの製法で、質が異なります。原材料がシンプルで、丸大豆・国産だとなお良し。

砂糖 — まず「減らす」。糖化という見えない負担

  • いちばん大切なのはとりすぎを減らすこと。砂糖のとりすぎは、腸内で炎症に傾きやすい菌を増やし、血糖の乱高下を招きます。
  • 血糖が高い状態が続くと、体内で「糖化(AGEs=終末糖化産物)」が進みます。これは酸化ストレスとともに、老化や神経のダメージに関わると考えられています。甘い飲み物・菓子パン・加工食品の「見えない砂糖」を減らすことが、いちばん効きます。
  • 使うなら黒糖・きび砂糖・甜菜糖など精製しすぎないもの、みりん・甘酒・果物の甘みを活かして。ただし「茶色い砂糖なら健康」ではありません。主役はあくまで“総量を減らす”。

油・塩 — 「搾り方」と「引き算」

  • 日常の油は「圧搾(コールドプレス)」を。化学溶剤を使わず搾ったものを選ぶ。マーガリン・ショートニング(トランス脂肪酸)や、揚げ物・加工食品由来の酸化した油・オメガ6のとりすぎは炎症に傾けます。青魚のオメガ3で釣り合いを。
  • 発酵調味料は塩分も伴います。だしのうま味で塩を控えるのが和の技。血圧の指導がある方は特に注意を。
  • 超加工食品を減らすだけで、添加物・砂糖・質の悪い油をまとめて減らせます。“何を足すか”より“何を減らすか”

6. 酸化とミトコンドリア — 「色の濃いもの」を食べる意味

パーキンソン病では、神経細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きの低下と、酸化ストレス(体のサビ)が病気に関わると考えられています。ここに、食べ物で立ち向かえる余地があります。

  • 色の濃い野菜・果物(緑黄色野菜、ベリー、なす、紫いも、緑茶など)のポリフェノール・抗酸化成分は、酸化に抵抗する方向に働きます。
  • ブロッコリーやその新芽(スプラウト)に多いスルフォラファンは、体内の抗酸化・解毒のしくみを高める成分として、基礎研究で注目されています(人での効果はこれからの段階ですが、日々の一皿に加える価値は十分です)。
  • 「一日で虹の色をそろえる」——赤・黄・緑・紫・白と、色数を意識するだけで、自然と抗酸化成分の幅が広がります。

7. よく噛む — 消化は口から始まり、命を守る

何を食べるかと同じくらい大切なのが、どう食べるか。なかでもよく噛むことは、パーキンソン病では見過ごせない意味を持ちます。

噛むことは、最初の消化

消化は胃腸ではなく、口から始まります。よく噛めば食べ物は細かく砕かれ、唾液と混ざります。唾液に含まれる消化酵素が働き出し、胃腸の負担が軽くなり、栄養の吸収もなめらかに。噛む回数が増えれば唾液も増え、口の中を清潔に保ち、腸へ送られるものの質も整います。腸を大切にする食事は、実は口から始まっているのです。

パーキンソン病では、噛む・飲み込む力が落ちやすい

パーキンソン病は、口やのどの筋肉にもこわばりと動きの鈍さをもたらします。進行とともに、噛む力・飲み込む力(嚥下)が落ち、食べ物や唾液が気管に入り込む「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなります。誤嚥性肺炎は、パーキンソン病で特に注意したい合併症の一つです。よく噛み、ゆっくり、安全に食べることは、栄養という以前に、命を守る営みになります。

よく噛むと、体にいいことが重なる

  • 食べ過ぎを防ぐ:ゆっくり噛むと満腹感が働き、量が自然に落ち着きます。血糖の急な上がり下がりもゆるやかに。
  • 脳と口の働きを保つ:噛む運動は脳を刺激し、顔や口まわりの筋肉のよいリハビリにもなります。
  • 薬の効きを助ける:しっかり噛んで消化を助けることは、レボドパの吸収を安定させることにもつながります。

安全に、よく噛んで食べる工夫

  • 一口は小さく、ゆっくり:目安は一口三十回ほど。飲み込んでから、次の一口へ。
  • 「ながら食べ」をやめる:一口ごとに箸を置くと、自然にゆっくりになります。テレビより、食事そのものに集中を。
  • 姿勢を整える:背すじを伸ばし、少しあごを引いて。あごが上がると誤嚥しやすくなります。
  • 水分・汁物と交互に:のどを潤しながら食べる。むせやすいときは、とろみをつけると安全です。
  • やわらかくしすぎない:刻む・煮るは大切ですが、何でも軟らかくすると噛む力そのものが衰えます。噛む力に合わせて、噛みごたえも残す。
  • 口の体操と唾液腺マッサージ:「パ・タ・カ・ラ」と声に出す、舌や頬を動かす、耳の下やあごの下をやさしく押す。噛む・飲み込む力を保つ習慣に。
  • 歯と入れ歯を整える:噛むには、噛める歯が要ります。合わない入れ歯は噛む力を奪います。口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防にもなります。

食後に声がガラガラする・よくむせる・微熱が続く・体重が減る——こうしたサインは、飲み込む力が落ちている合図です。早めに受診を。

8. 食べる「リズム」も、腸を動かす

  • 規則正しく食べる:腸内細菌にも一日のリズムがあります。決まった時間の食事が、腸の調子を整えます。
  • 朝食を抜かない:食べ物が胃に入ると腸が動き出す反射が起きます。朝食後は、一日でいちばん自然にお通じが促される時間。
  • 水分は日中にしっかり:便を軟らかく保つ土台。夜のトイレが心配なら、朝から昼に多め、夕方からは控えめに。起きぬけの一杯の水や白湯が、腸を目覚めさせます。

9. お薬(レボドパ)と食事の、見落とせない関係

パーキンソン病ならではの、重要なポイントです。

  • たんぱく質と“席の取り合い”:レボドパはたんぱく質(アミノ酸)と同じ入口で腸から吸収されます。肉・魚・卵・大豆・乳製品を一度に多くとると、薬の効きが弱まったり遅れたりすることが。抜く必要はなく、たんぱく質を昼より夕食に寄せる(たんぱく質の“再配分”)薬は食前にといった工夫が効くことがあります(主治医に相談を)。
  • 腸内細菌が薬を“横取り”する:一部の腸内細菌が、脳に届く前のレボドパを分解してしまうことが分かってきました。腸内環境は、薬の効き方にまで関わります。
  • 便通が乱れると、効きも乱れる:腸の動きが滞ると薬の吸収が遅れます。腸を整えることは、薬を安定して効かせることでもあります。
  • 鉄剤やカルシウムを同時にとると吸収が落ちることもあります。飲み合わせは主治医・薬剤師に相談を。

10. 和食ベースの一日 — 献立の考え方

むずかしく考えず、一汁三菜に戻すだけで、多くがそろいます。

  • :具だくさんの味噌汁(火を止めてから味噌)、ご飯、納豆、焼き海苔、季節の果物。起きぬけに水か白湯を一杯。
  • :魚か豆を主菜に、野菜・海藻の小鉢。たんぱく質はほどほどに。
  • :たんぱく質(肉・魚)はこの時間に寄せる。色の濃い野菜を多めに、仕上げに良質なオリーブオイルを少量。ぬか漬けや本物のキムチを添えて。
  • 間食は、甘い菓子よりナッツ・果物・ヨーグルトが合う人は無糖のものを。

11. 無農薬という選択、そして「自分の体で確かめる」こと

● 無農薬の玄米・緑茶をめぐって

患者さんのなかには、無農薬の玄米や無農薬の緑茶を食習慣に取り入れて、「体調がよくなった」と感じている方が少なくありません。こうした体験の声は、大切に受け止めたいものです。

背景として、農薬(有機リン系など)への曝露は、パーキンソン病の発症のリスクを高めることが、複数の研究で報告されています。毎日口にするお米やお茶で農薬を減らすという選択には、一定の理屈があります。緑茶に含まれるポリフェノールは、神経を守る観点から研究が続いており、玄米は食物繊維やミネラルに富む全粒穀物です。

「これで治る」ではなく、「農薬を減らし、質のよいものを選ぶ」という、日々の積み重ねのひとつとして。無理のない範囲で取り入れてみるのは、よい選択だと思います。(玄米は消化に負担がかかることもあるので、よく噛んで、体調に合わせて。)

● 食べ方と薬の効きの関係を、自分の体で把握する

レボドパは、食事のたんぱく質と吸収を競うため、「いつ・何を食べるか」で効き方が変わります。その出方は人によって違うので、いちばん確かなのは、自分の体で確かめることです。

たとえば、食事の時間と薬の時間、そのあとの調子(効き始め、切れる時間)を、数日でも記録してみる。ときに三食にこだわらず、一食を軽くしたり抜いたりして、薬の効きがどう変わるかを観察してみる——そうした工夫から、自分に合った“食べ方と薬のリズム”が見えてきます。ただし、欠食は低栄養や低血糖につながることもあります。食べ方を大きく変えるときは、必ず主治医や薬剤師に相談し、記録を持って行って、一緒に確かめてください。

まとめ

  • パーキンソン病は「腸」と深くつながる病気。異常は腸から始まる可能性があり、便秘は早期のサイン。腸内細菌の乱れは炎症の火種になる。
  • 日本人には和食が軸——発酵食・発酵性の繊維・麹・海藻が、腸を整える仕掛けとして理にかなう。キムチも心強い仲間。
  • 地中海式は良いとこ取り。オリーブオイルは本物を(辛みはポリフェノールの証)。
  • 現代の和食は“本物”を選ぶ目が要る。味噌・醤油・砂糖・油・塩、そして超加工食品の引き算。
  • 色の濃いもので酸化に抵抗し、よく噛んで安全に食べ、リズムを整える。
  • レボドパを飲むなら、たんぱく質の配分・腸内環境・便通が効きに関わる。
  • 万能ではないが、お通じが整うという確かな手ごたえとともに、今日からご自身の食卓で始められる。

免責事項
本記事は情報提供を目的とした連載コラムであり、特定の食品・商品・療法を保証するものではありません。効果や安全性には個人差があります。日々の食事は自分で始められますが、お薬(特にレボドパ)と食事のタイミング、すでに受けている食事制限、飲み込み(誤嚥)の不安については、その点を主治医・薬剤師に相談してください。

参考にした主な研究・知見:Braakら αシヌクレイン病理の進展仮説/Svenssonら(2015)迷走神経切除とパーキンソン病発症リスク(デンマーク)/Kimら(2019, Neuron)腸から脳へのαシヌクレイン伝播と迷走神経の役割(動物実験)/Scheperjansら(2015)腸内細菌叢とパーキンソン病/短鎖脂肪酸(酪酸)と制御性T細胞・腸バリア/Hehemannら(2010, Nature)日本人腸内細菌の海藻分解酵素/Metcalfe-Roachら(2021)MIND・地中海式食と発症年齢/Maini Rekdalら(2019, Science)腸内細菌によるレボドパ代謝/Beauchampら(2005, Nature)オリーブオイルのオレオカンタールの抗炎症作用/スルフォラファンとNrf2経路(基礎研究)。

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