パーキンソン病の基礎知識
この記事は、はじめての方やご家族に向けた基礎知識のまとめです。診断や治療の判断は、必ず主治医にご相談ください。
この記事でわかること
- パーキンソン病とはどんな病気か
- 運動症状と、見落とされやすい非運動症状
- 「振戦優位型」「姿勢反射障害型」という、症状の出方のタイプ
- 「パーキンソン病」と「パーキンソン症候群」の違い
- 病気の進み方(病期)と診断
- 原因研究の最前線
- 治療の全体像(薬・リハビリ・手術やデバイス・生活のケア)
- 入院時に知っておきたい、意外と知られていない注意点
1. パーキンソン病とは
パーキンソン病は、脳の中でドパミンという物質をつくる神経細胞(黒質という部分にあります)が、少しずつ弱っていく病気です。ドパミンは、体をなめらかに動かすための大切な信号を伝えています。これが不足すると、動きに関わるさまざまな症状があらわれます。
日本での医療費助成の対象者(指定難病の受給者証所持者)は約14.7万人(令和5年度)ですが、軽症の方を含めた実際の患者数はこれより多く、20万人台後半という推計もあります。65歳以上では100人に1人程度ともいわれ、けっしてめずらしい病気ではありません。多くは50歳以降に発症しますが、40歳未満で発症する「若年性パーキンソン病」もあります。進み方は人によってちがい、ゆっくり長く経過するのが特徴です。今のところ完全に治す方法は確立していないが、治療とリハビリによって症状をコントロールし、生活の質(QOL)を長期にわたり維持することは可能です。
2. あらわれる症状
運動症状
- ふるえ(振戦) — じっとしているときに手足がふるえる。片側から始まることが多い。
- 動作が遅くなる(無動・寡動) — 動き出しにくい、細かい動作がしにくい。
- 筋肉のこわばり(固縮) — 手足や体幹がかたく、動かしにくい。
- 姿勢・バランスの障害 — 前かがみになり、転びやすくなる。歩き出しの一歩が出にくい「すくみ足」も。
非運動症状(見落とされやすいが、生活を大きく左右します)
- 便秘 — 運動症状より何年も早く出ることがあります。
- 睡眠の問題 — 眠りが浅い、大声の寝言や体が動くレム睡眠行動障害。
- 気分の落ち込み・意欲の低下 — うつやアパシー。
- 立ちくらみ — 起立時に血圧が下がる。
- 嗅覚の低下 — においを感じにくい。早い時期のサインのひとつ。
運動症状に注目が集まりやすいが、日々の暮らしやすさを左右するのは非運動症状であることが多いです。気になる症状は主治医に伝えることが望ましいといえます。
3. 症状の出方には「タイプ」がある
パーキンソン病は、すべての方が同じように進むわけではありません。症状の出方によって、大きく2つのタイプに分けて考えることがあります。
- 振戦優位型 — ふるえが主な症状で、動作の遅さやこわばりは目立たない。診断されてからの数年間、比較的症状が安定していることが多いタイプです。
- 姿勢反射障害・歩行障害型(PIGD型) — バランスの崩れや、すくみ足、歩行の困難さが目立つタイプ。振戦優位型に比べて進行がやや速い傾向があるとされます。
ご自身やご家族がどちらの傾向に近いかを知っておくと、リハビリの重点の置き方(バランス訓練を優先するなど)を主治医や理学療法士と相談しやすくなります。どちらか一方に完全に当てはまらない方や、経過とともに傾向が変わる方もいます。
4. 「パーキンソン病」と「パーキンソン症候群」はちがう
手のふるえや動作の遅さがあると、すぐに「パーキンソン病」と思われがちですが、じつは似た症状を示す病気がいくつかあり、まとめて「パーキンソン症候群(パーキンソニズム)」と呼ばれます。代表的なものに、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、レビー小体型認知症(DLB)などがあります。
これらは治療法や進み方がパーキンソン病とは異なるため、区別がとても大切です。診断には、症状の丁寧な診察に加えて、ドパミン神経の状態を調べるDaTスキャンや、心臓の自律神経の働きを調べるMIBG心筋シンチグラフィーといった検査が役立ちます。初診の時点では判断が難しく、経過を見ながら診断が確定していくケースもあります。診断の確定までに時間を要する例は、めずらしくありません。
5. 病気の進み方と診断
進行の程度を表すのに、ホーエン・ヤール(Hoehn & Yahr)の5段階がよく使われます。早期(1〜2度)は症状が体の片側中心で日常生活はほぼ自立、中期(2〜3度、姿勢反射障害が明らかになる3度からは難病医療費助成の対象になります(生活機能障害度2度以上であることもあわせて必要です))でバランスの問題が出はじめ、進行期(4〜5度)では介助が必要になっていきます。あくまで目安で、進み方には個人差があります。
近年は、皮膚生検や髄液検査で異常なタンパク質(αシヌクレイン)をとらえる、より早い診断の研究も進んでいます。将来的には、症状がはっきり出る前の段階で診断できる可能性も期待されています。
6. 原因研究の最前線
パーキンソン病がなぜ起こるのか、完全には解明されていませんが、研究は着実に進んでいます。
- 遺伝的要因 — LRRK2やGBAといった遺伝子の変異が、発症リスクに関わることがわかっています。ただし、パーキンソン病の多くは特定の遺伝子だけで説明できるものではなく、血縁者に発症者がいなくても発症します。
- 「腸から始まる」という仮説(Braak仮説) — 異常なタンパク質(αシヌクレイン)が、腸から迷走神経を通って脳へ広がっていくのではないか、という考え方です。便秘が運動症状より早く現れることと、うまく符合します。
- 環境要因 — 一部の農薬や、工業溶剤(トリクロロエチレンなど)への長期曝露が、発症リスクと関連する可能性が指摘されています。
発症は、単一の原因によるものではなく、複数の要因が重なって起こると考えられています。
7. 治療の全体像 — 4つの柱
① 薬物療法(症状コントロールの中心)
不足するドパミンを補うレボドパ(+カルビドパ)が基本の薬です。これにドパミン作動薬、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬などを、症状や副作用に合わせて組み合わせます。発症から数年〜10年ほど経つと、薬が効く時間と切れる時間の波(オン・オフ現象、ウェアリングオフ)が出やすくなります。これは、病気の進行にともなって、脳がドパミンを蓄えておく力そのものが弱くなり、薬の血中濃度の変化がそのまま症状の変化として出やすくなるために起こります。薬の種類・回数・徐放製剤などでこの波を平らにする調整を行います。
② リハビリ・運動療法(“効く治療”です)
運動は、薬と並ぶ治療の柱です。「週150分」という目安がよく紹介されますが、これはもともと、運動量が多い群と少ない群とで生活の質の低下速度に差が生じた、という研究に基づく数値であり、上限ではなく最低ラインを示すものです。週2.5時間(150分)以上活発に体を動かす人は、それ未満の人に比べて症状の進行が最大50%ゆるやかだったとする報告もあります。有酸素運動・筋力・バランス・ストレッチを組み合わせ、無理のない範囲で運動量を増やしていくことが推奨されます。
継続の効果を示すデータもあります。短期集中の高強度運動プログラムのあと、週3回のペースで6年間継続したグループを追跡した研究では、症状の悪化がほとんど見られず、薬の増量も最小限にとどまりました。運動を継続しなかったグループでは、同じ期間で症状が着実に悪化しています。継続期間が長いほど、両群の差は明確になります。地道な積み重ねが結果につながることを示す、心強いデータです。
外出や運動が困難な場合も、訪問看護や訪問リハビリを利用し、理学療法士などとともに体を動かす方法があります。筋肉のこわばりは、動かさない時間が長いほど再び強まりやすいため、週1〜2回より高い頻度で刺激を入れ続けることが、こわばりの定着を防ぐとされています。頻度の調整は、担当のケアマネジャーや訪問看護師への相談が窓口になります。
パーキンソン病専用に開発されたLSVT BIG(大きく動く)やLSVT LOUD(大きな声を出す)にはエビデンスがあり、姿勢・歩行・発声の改善が期待できます。太極拳・気功・ダンスなども有効で、この会の連載でくわしく紹介しています。
③ 手術・デバイス治療(薬で不十分なときの選択肢)
- 脳深部刺激療法(DBS) — 脳に電極を入れ、電気で症状を和らげます。近年は脳の状態に合わせて自動調整する「適応型DBS」も登場しています。
- 集束超音波(MRgFUS) — 頭を切らずに超音波で狙った部位を治療。日本では2020年にパーキンソン病が保険適用になりました。
- 持続投与療法 — レボドパを腸や皮下から絶え間なく届ける方法。効果の波をならすのに役立ちます。
④ 生活・合併症のケア
便秘・立ちくらみ・睡眠・気分・痛みといった非運動症状は、生活を大きく左右します。食事・水分・運動・生活リズムなどの工夫に、必要に応じて薬を組み合わせ、早めに手当てをしていきます。具体的な工夫は「症状別セルフケアの工夫」でまとめています。
8. 入院するときに、知っておいてほしいこと
パーキンソン病の薬には、飲む時間がずれるだけで症状が大きく崩れるという特徴があります。この点は十分に知られていません。イギリスの調査では、予定時刻から30分以上ずれて薬が投与されるケースが、入院患者さんの半数近くに上ったという報告もあります。手術や骨折など、パーキンソン病とは別の理由で入院したときに、病院の定時薬のスケジュール(朝・昼・夕の決まった時間)に合わせられてしまい、ご本人のふだんの服薬時間とずれてしまうことが、世界的に課題になっています。
症状の悪化を防ぐため、入院時には次の点を医療スタッフに伝えておくことが望ましいといえます。
- ふだんの服薬時間を、正確に(分単位で)医療スタッフに伝える。お薬手帳や服薬スケジュールのメモを持参する。
- 「薬が数十分遅れるだけで、動けなくなったり、飲み込みにくくなったりすることがある」ことを説明する。
- 絶食(禁食)の指示が出た場合も、パーキンソン病の薬だけは水で飲んでよいか、医師に確認してもらう。
- 可能であれば、自己管理で持参薬を服用できないか相談する。
家族が付き添う場合は、この点をあらかじめ看護師に伝えておくことで、対応がより円滑になります。
9. 長期的な向き合い方
パーキンソン病は、単独で対処すべき病気ではありません。本人が病気を理解すること、家族が支え方を知ること、同じ病気を持つ人々とつながりを持つことが、生活の維持に寄与するとされています。福岡県支部では、リハビリ体操や交流の場(カフェ形式の集まり等)を運営しています。相談先の一つとして、ぜひご活用ください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療の判断に代わるものではありません。症状や治療については、必ず主治医にご相談ください。
参考にした主な情報
・日本神経学会「パーキンソン病」/難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」
・厚生労働省 パーキンソン病 診断基準資料
・国立長寿医療研究センター「パーキンソン病とパーキンソン症候群」
・Parkinson’s UK “Get It On Time” キャンペーン資料
・運動量と症状進行の関連に関する報告(Stanford PD Community Blog ほか)
・高強度運動の6年間追跡研究「Detraining Slows and Maintenance Training Over 6 Years Halts Parkinsonian Symptoms-Progression」(Frontiers in Neurology, 2021)