【連載】足という要 第1回|カテゴリー:足のセルフケア
この記事は情報提供を目的とした連載コラムです。症状の現れ方や足の状態には個人差があります。ご自身の場合については、主治医にご相談ください。
この連載について
パーキンソン病とともに生きるうえで、足は驚くほど大きな意味を持っています。歩けるかどうか、転ばずにいられるか、痛みなく一日を過ごせるか——その多くが、足の状態にかかっています。
それにもかかわらず、足は見過ごされがちな場所です。診察でふるえや動作の遅さは話題になっても、足の裏や指の状態まで丁寧に診られることは、多くありません。
この連載では、パーキンソン病と足の関係を、数回に分けて掘り下げます。第1回は総論として、「なぜ足がそれほど大切なのか」をお伝えします。続く回で、足に起こる変形の見分け方、その改善法、自宅でできる運動へと、具体的に進んでいきます。専門家向けではなく、患者さんとご家族が読んで、判断の材料にできることを目指します。
1. 足は、最初に異変を告げる場所
パーキンソン病というと、手のふるえを思い浮かべる方が多いと思います。けれども足もまた、この病気と深く関わっています。足は、病気の異変を最初に告げる場所のひとつでもあります。
足の変形が、運動症状の三徴(ふるえ・動作の遅さ・こわばり)よりも先に現れることがあります。パーキンソン病に特有の母趾の変形である「線条体趾(せんじょうたいし)」は、まだ他の症状がはっきりしない早期の段階で生じることが知られています。
ある研究者は、こう指摘しています。パーキンソン病の患者さんは、自分の足の状態について最初に警告を発する人であり、歩行の問題や足の痛み、生活の質への影響について、貴重な情報を医療者に伝えてくれる存在だ、と。足の変化に気づき、それを言葉にすることは、病気の状態を知る手がかりになります。
なぜ、足に異変が出やすいのでしょうか。ひとつは、足が体のいちばん末端にあり、しかも全体重を受け止め続ける場所だからです。神経の働きの乱れや筋肉の緊張の変化は、こうした負荷の大きい末端に、姿勢の崩れや変形として現れやすいと考えられています。もうひとつは、足がもっとも遠くて、見えにくい場所だからです。手や顔の変化には気づいても、靴の中の足指の変化には、本人もなかなか気づけません。
2. 数字が示す、足の問題の広がり
足の問題が、どれほど広く患者さんに及んでいるか。研究の数字を見てみます。
パーキンソン病の患者と健康な人を比べたスペインの研究では、患者側に、関節のこわばり56.4%、足全体の痛み41.9%、足指の変形27.4%という割合で足の問題が見られました。健康な人では関節のこわばりはわずか1.6%、足指の変形も数%にとどまり、差は歴然としています。
痛みについても深刻です。パーキンソン病の患者100人を対象にした研究では、76%が何らかの痛みを抱えていました。そのうち筋骨格系の痛みが41%、ジストニアによる痛みが17%。複数の痛みを同時に抱える人も多く、痛みの種類が増えるほど、進行した段階の方に多く見られました。
足の健康と生活の質の関係を調べた研究では、パーキンソン病の患者は、歩行や移動、足の痛み、爪の手入れ、足の衛生といったあらゆる面で、健康な人より低い状態にありました。そして患者さん自身が、自分の足の状態を実際に悪いと感じていました。
見落としてはならないのが、足の痛みや不具合が、ふるえや動作の遅さといった目立つ症状の陰に隠れやすいことです。歩きにくさが、病気による動作の遅さのせいなのか、足そのものの痛みや変形のせいなのか——本人にも区別がつきにくく、周囲にはなおさら見えません。こうして足の問題は、語られないまま、静かに生活を狭めていきます。
3. なぜ、足が歩行とバランスの要なのか
生体力学の観点から見ると、足、とりわけ母趾(足の親指)は、歩行とバランスの要です。
歩くという動作の最後には、地面を蹴って体を前に送り出す「蹴り出し」があります。この局面で中心的な役割を果たすのが、母趾の付け根の関節です。立っているとき、母趾とその下の骨は体重のかなりの部分を支え、蹴り出しの瞬間には大きな荷重がこの一つの関節を通過します。母趾は、ほかのどの指よりも大きな負荷を受け止めています。
さらに、母趾が上に反ると、足の裏の腱膜が巻き上げられて張り、足のアーチが持ち上がって、足全体が一本の硬い「てこ」に変わります。この仕組みによって、蹴り出しの力が無駄なく地面に伝わります。
そして、バランスです。足の裏、とりわけ母趾は、姿勢を保つための感覚情報を脳へ大量に送り返しています。足からの感覚は、私たちが立ち、歩き、転ばずにいるための、いわば地面との対話です。目を閉じても立っていられるのは、足裏からの情報のおかげです。足の裏には無数のセンサーが埋め込まれていて、地面の硬さや傾き、体重のかかり方を、刻一刻と脳に送っています。
パーキンソン病では、この感覚の伝わり方や、脳がそれを処理する仕組みに乱れが生じると考えられています。だからこそ、後の回でくわしく触れますが、足裏を刺激して感覚情報を高めてやると、歩行が改善するという研究結果が得られています。足は、体を支える土台であるだけでなく、脳とつながった感覚器官でもある——この連載を貫く、大切な視点です。
パーキンソン病では、この足の働きが二重に脅かされます。ひとつは、病気そのものによる歩行の変化。歩幅が小さくなり、かかとの接地が変わり、足の運びが低くなる。もうひとつは、足そのものの変形や痛み。この二つが重なって、足からの支えが弱っていきます。
4. 足が弱ると、何が起こるか — 転倒
足の働きが弱ったとき、もっとも深刻な結果として現れるのが、転倒です。
パーキンソン病では、60〜70%の方が年に一度は転倒すると報告されています。転倒は骨折や入院につながり、生活の質を大きく損ない、ときに命に関わります。高齢の方では、足に変形や病変があることが、転倒の危険を確かに高めることも知られています。
足の問題は、「足が痛い」で終わりません。踏ん張れない、バランスが取れない、そして転ぶ——という連鎖の入口になります。裏を返せば、足を守ることは、転倒を防ぐことに直結しています。
さらに、痛みそのものが動きを縛ります。足が痛ければ、人は自然とかばい、歩く量が減り、外出を控えるようになります。動かなくなれば筋力とバランスはさらに衰え、足の状態も悪くなる。この悪循環は、「動かなくなることの怖さ」と、足の側で地続きにつながっています。
5. それでも、足は見過ごされてきた
足はパーキンソン病にとってきわめて重要です。にもかかわらず、足の診察は日常の診療にあまり組み込まれてこなかった、と研究者らは指摘しています。パーキンソン病の患者の足の問題については、まだ研究が少なく、通常の診察や治療に足の評価が含まれることは多くありません。足の変形が整形外科的な問題と取り違えられ、不要な検査につながることも指摘されています。
これは裏を返せば、まだ手が届いていない領域だ、ということです。足に目を向けることで、これまで見過ごされてきた改善の余地が見つかる可能性があります。近年、足を専門に診る医師(足病医)や理学療法士がパーキンソン病の足に関わる研究が増え、足裏への刺激、足指の訓練、装具の工夫といった、足からアプローチする方法が次々と検証されるようになってきました。この連載で紹介していくのも、その多くが、ここ十年ほどのあいだに積み重ねられてきた新しい知見です。
大切なのは、足の問題が「年のせい」「病気だから仕方ない」で片づけられるものではない、ということです。適切に見極めれば、和らげられる余地があります。
6. この連載で、これから伝えること
足がパーキンソン病の要であること、そしてそれが見過ごされてきたこと。この二つを出発点に、連載では次のように進めます。
次回は、パーキンソン病に関わる足の変形を「見分ける」話です。母趾の変形には、神経由来のものと構造的なものの二つがあり、見た目は似ていても対処がまったく異なります。この違いを知ることが、正しい改善への第一歩になります。その後、それぞれの変形をどう改善するか、足裏への刺激や足指の訓練が歩行とバランスにどう働くか、そして自宅でできる具体的な運動へと進みます。
足の親指は、体を支える小さな要です。その働きに目を向けることから、始めていきます。
次回予告|第2回「似ているけど違う、二つの変形 — 外反母趾と線条体趾」
パーキンソン病に関わる母趾の変形には、神経由来の「線条体趾」と、構造的な「外反母趾」があります。見た目は似ていても、原因も対処も異なるこの二つを、どう見分けるか。誤診されやすいという問題も含めて、掘り下げます。
参考にした主な情報
・Effect of foot health and quality of life in patients with Parkinson disease(The Foot, 2021)
・The implications of the foot health status in Parkinson patients(International Wound Journal, 2022)
・Valkovic P, et al. Pain in Parkinson’s Disease(PLOS ONE, 2015)
・Novo-Trillo E, et al. Impact of Footwear and Foot Deformities in patients with Parkinson’s disease(Int. J. Med. Sci., 2021)
・Ashour R, Tintner R, Jankovic J. Striatal deformities of the hand and foot in Parkinson’s disease(Lancet Neurology, 2005)
免責事項
本記事は、公表されている研究をもとにした情報提供を目的としています。症状の現れ方や足の状態は個人によって異なり、記載内容が万人に当てはまるとは限りません。ご自身の場合については、主治医にご相談ください。