【特別連載】西洋医学の”今”と”これから” 第3回
この記事は情報提供を目的とした連載コラムです。研究の「期待」と「現実」の両方を、誠実にお伝えします。
この記事でわかること
- LRRK2遺伝子とパーキンソン病の関係
- 期待されてきたLRRK2阻害薬とは
- 2026年、大規模試験で何がわかったか
- 「うまくいかなかった」ことから見えてくるもの
1. LRRK2遺伝子とは
これまでの連載でも触れてきたとおり、パーキンソン病の一部には、遺伝的な要因が関わっています。中でもLRRK2という遺伝子の変異は、発症に関わる代表的なもののひとつとして知られています。LRRK2の働きが過剰になることが、神経細胞に負担をかけているのではないか、という考えのもと、この働きを抑える「LRRK2阻害薬」の開発が、世界中の製薬会社で進められてきました。
2. 大きな期待を集めた薬 — BIIB122
その代表格が、BIIB122(開発コード DNL151)という飲み薬です。バイオジェン社とデナリ・セラピューティクス社が共同で開発を進め、LRRK2の働きを実際に90%以上抑えられることも確認されていました。「仕組みの上ではしっかり効いている」薬として、大きな期待が寄せられていました。
3. 2026年、何が示されたか
2026年5月、648人の早期パーキンソン病患者さんを対象にした大規模な第2b相試験(LUMA試験)の結果が発表されました。結果は、期待されていたものとは違うものでした。
症状の進行を遅らせる効果は、主要評価項目でも、その他の評価項目でも確認されませんでした。脳や体の中でLRRK2の働きをしっかり抑えられていたにもかかわらず、それが症状の進行を止めることには、つながらなかったのです。この結果を受けて、両社は、LRRK2変異を持たない一般のパーキンソン病患者さんを対象にした開発を中止すると発表しました。
4. 「うまくいかなかった」ことから見えてくるもの
これは、この連載でお伝えしてきたGLP-1薬の話とも重なる、大切な教訓です。「仕組みの上ではもっともらしい」ことと、「実際に人の体で効果が出る」ことのあいだには、大きな距離があります。世界中の優れた研究者・莫大な資金を投じても、大規模な試験で確かめてみるまでは、本当のところはわからない——これが薬の開発の厳しい現実です。
ただし、この話には続きがあります。開発会社の一方(デナリ社)は、LRRK2の遺伝子変異を実際に持っている人だけを対象にした、別の試験(BEACON試験)を続けています。結果は2027年前半に判明する見込みです。「全員に効く薬」を目指した開発はいったん立ち止まりましたが、「特定の遺伝的背景を持つ人になら効くかもしれない」という、より的をしぼった形での可能性は、まだ残されています。
まとめ
- LRRK2阻害薬(BIIB122)は、遺伝子の働きを狙う仕組みの上では期待されていた薬。
- 2026年の大規模試験で、症状の進行を遅らせる効果は確認されず、一般患者への開発は中止に。
- 「仕組みが正しそうに見えること」と「実際に効くこと」は別問題、という研究の難しさを示す例。
- LRRK2の遺伝子変異を持つ人に絞った試験は継続中で、結果は2027年前半に判明予定。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的とした連載コラムであり、特定の治療法を推奨・保証するものではありません。記載されている薬剤は開発中止となったものを含みます。治療に関するご判断は、必ず主治医にご相談ください。
参考にした主な情報
・バイオジェン社/デナリ・セラピューティクス社 LUMA試験トップライン結果発表(2026年5月)