【特別連載】西洋医学の”今”と”これから” 第2回
この記事は情報提供を目的とした連載コラムです。治験段階の治療であり、現時点で一般の患者さんが使える治療ではありません。
この記事でわかること
- 遺伝子治療とはどんな考え方か
- 「AADC遺伝子治療」「GDNF遺伝子治療」それぞれの狙い
- これまでの治験で何がわかっているか
- 今後の見通しと、いま知っておきたい限界
1. 遺伝子治療という考え方
ここまで紹介してきた薬の多くは、体の外から成分を補うものでした。遺伝子治療は発想が異なります。脳の狙った場所に、無害化したウイルスを運び役にして「特定のタンパク質を作り出す遺伝子」そのものを届け、脳の中で必要な物質を作らせ続けよう、という考え方です。一度の手術で、長期にわたる効果を狙います。
2. AADC遺伝子治療 — 薬の「変換スイッチ」を増やす
レボドパは、脳の中で「AADC」という酵素の働きによってドパミンに変換されて、はじめて効果を発揮します。ところが病気が進むと、この酵素そのものが減ってしまい、レボドパを飲んでもうまく変換できず、効果にムラが出やすくなります。
AADC遺伝子治療は、この酵素を作る遺伝子を脳に直接届け、レボドパをドパミンに変える力を取り戻させようとするものです。初期の治験では、治療を受けた患者さんで、必要な薬の量が減り、副作用の少ない良い状態で過ごせる時間が増えた、と報告されています。
3. GDNF遺伝子治療 — 神経を「育て直す」という発想
GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)は、ドパミン神経を守り、育てる働きを持つとされるタンパク質です。GDNF遺伝子治療は、この物質を脳の中で作り続けさせることで、弱ったドパミン神経を保護し、場合によっては新たに伸ばすことまで狙う治療です。
ある患者さんの症例では、投与から45か月経った後も、脳内でGDNFが作られ続けていることが確認され、あわせてドパミン神経が新たに伸びている兆候や、ドパミンの働きを示す脳の画像検査の数値の改善も報告されました。より多くの患者さんを対象にした第2相試験(REGENERATE-PD)が進行中です。
一方で、同じように神経を守る物質を届けようとした別の遺伝子治療(ニュールツリン)の治験では、安全性に問題はなかったものの、運動症状のスコアに明確な変化が見られなかった、という結果もありました。「神経を育て直す」という発想がすべて成功しているわけではなく、狙う物質や届け方によって結果が分かれている、というのが現在地です。
4. 今後の見通しと、いま知っておきたい限界
遺伝子治療の多くは、まだ少人数を対象にした初期段階の治験です。効果を確かめるには、より多くの患者さんを対象にした試験と、長期間の安全性の確認が欠かせません。また、脳への手術そのものにともなうリスクも考慮する必要があります。
それでも、「神経を守る」「神経を育て直す」という、これまでの薬にはなかった方向性を持つ治療として、世界中で研究が続けられています。今後数年で、より大きな規模の試験結果が出てくることが期待されます。
まとめ
- 遺伝子治療は、脳に狙った遺伝子を届け、体内で必要な物質を作らせ続ける治療法。
- AADC遺伝子治療は、レボドパをドパミンに変える力を取り戻させる狙い。初期治験で症状改善が報告されている。
- GDNF遺伝子治療は、神経を守り育てる働きを狙う。長期の効果持続が報告される一方、同様のアプローチで効果を示せなかった治験もある。
- いずれも治験段階。今後の大規模な試験結果が待たれる。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的とした連載コラムであり、特定の治療法を推奨・保証するものではありません。記載されている治療は治験段階のものを含み、現時点で承認・使用できるとは限りません。治療に関するご判断は、必ず主治医にご相談ください。
参考にした主な情報
・パーキンソン病における遺伝子治療の総説(PMC, 2025)
・AAV2-AADC遺伝子治療 第1相試験
・AAV2-GDNF長期発現症例報告、REGENERATE-PD第2相試験
・AAV2-ニュールツリン(CERE-120)第1相試験