【連載】足という要 第2回|カテゴリー:足のセルフケア
この記事は情報提供を目的とした連載コラムです。症状の現れ方や足の状態には個人差があります。ご自身の場合については、主治医にご相談ください。
はじめに
パーキンソン病の患者さんとご家族から、足の変形について尋ねられることがあります。「以前はなかったのに、母趾(親指)が曲がってきた」「外反母趾と言われたが、パーキンソン病と関係があるのか」といった声です。
結論を先にお伝えすると、この問いには二つの側面があります。ひとつは、パーキンソン病でよく見られる足の変形の中に、外反母趾とよく似た見た目のものがあり、しかしその原因はまったく別だということ。もうひとつは、一般的な外反母趾そのものも、パーキンソン病の患者さんに起こりやすい背景があるということです。
この二つは、対処の方向が異なります。混同されやすく、実際に医療現場でも取り違えが起こることが指摘されています。ここでは、現在わかっていることを整理してお伝えします。
1. 「外反母趾に似ているが、別のもの」— 線条体変形
パーキンソン病には、手足に特有の変形が現れることが古くから知られています。これを線条体変形(striatal deformity)、足に現れたものを線条体足(striatal foot)、母趾に現れたものを線条体趾(striatal toe)と呼びます。この名は、脳の線条体(被殻と尾状核)の異常が原因と考えられていることに由来します。ただし、正確な発生の仕組みは、まだ解明されていません。
100年以上前に記載されたこの変形は、運動症状の三徴(ふるえ・動作の遅さ・こわばり)がまだ現れていない早期の段階でも生じることがあり、ほかのパーキンソン症候群でも見られます。
● どのような変形か
線条体足の典型は、母趾が上または下に反り、ほかの指が足の裏側に曲がり込み、足首が内側にねじれる(内反尖足)というものです。母趾については、上に反り返るタイプ(伸展)と、外側へ倒れ込むタイプがあり、外側への強い倒れ込みは重症型とされています。
ここが大切な点です。この「外側への倒れ込み」は、見た目が外反母趾とよく似ています。しかし、原因はまったく異なります。一般的な外反母趾が関節や靭帯の構造的な問題であるのに対し、線条体趾は、筋肉の異常な緊張(ジストニア)やこわばり(固縮)によって引き起こされる、いわば神経由来の姿勢の異常です。
● 見分けの手がかりと、取り違えの問題
線条体変形は、しばしば整形外科的な問題と誤診されます。母趾が上を向く様子は、脳や脊髄の別の病気で見られる反射(バビンスキー徴候)と間違われることがあり、足首の内反尖足は整形外科の問題に見え、手の変形は関節リウマチと似ています。
見分けの手がかりのひとつは、早期のうちは、自分で動かしたり他人が動かしたりすることで、ある程度ただせるという点です。構造そのものが固まってしまう一般的な外反母趾とは、この点が違います。もうひとつの手がかりは、線条体足が現れる側が、パーキンソン病の初発症状が現れた側と一致しやすいことです。ある研究では、83%の患者さんでこの左右の一致が見られました。
● どのくらいの頻度で起こるか
進行期のパーキンソン病では、未治療の患者さんの最大10%に手足の変形が見られるとされています。神経変性疾患(パーキンソン病、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺)の患者202人を対象とした研究では、線条体足は5.9%に見られ、この変形を持つ人は持たない人より若く、発症年齢が早い傾向がありました。インドの研究では、パーキンソン病の患者70人のうち34人(48.57%)に、何らかの線条体変形または姿勢の変形が見られたと報告されています。
● 薬との関係
線条体変形は、パーキンソン病の薬に反応しにくいとされています。一方で、レボドパ治療を続ける中で足のジストニアが現れることもあり、こちらは20〜40%の患者さんに見られるという報告があります。薬が効きにくい変形と、薬に関連して現れる変形の、両方があるということです。なお、レボドパが普及する以前に比べ、現在は手足の変形の頻度が低いという指摘もあり、現代の薬物治療がこうした変形の出現を抑えている可能性が示唆されています。
2. 一般的な外反母趾も、起こりやすい背景がある
線条体変形とは別に、私たちがふつう「外反母趾」と呼ぶ、あの構造的な変形そのものについても、パーキンソン病の患者さんに起こりやすい事情があります。
そもそも外反母趾は、加齢とともに増えます。18〜65歳では約23%、65歳以上では約35%に見られるとされ、決して珍しいものではありません。女性に多いことも知られています。そのうえで、パーキンソン病の患者さんに関わる背景として、次の点が挙げられます。
● 足に合わない靴を履いている人が多い
パーキンソン病の患者53人を対象にしたスペインの調査では、右足で75.5%、左足で60.4%の人が、長さ・幅・またはその両方で足に合わない靴を履いていました。同じ調査で、88.68%の患者さんが何らかの足の病変を持っており、そのうち45.3%に外反母趾と足指の変形が見られました。足に合わない、とくに幅の狭い靴を長く履くことは、外反母趾を悪化させる要因として広く知られています。研究者らは、パーキンソン病の患者さんには、足の実際の形に合った、幅広い選択肢の靴が必要だと指摘しています。
● 歩き方の変化と、バランスの問題
パーキンソン病では、歩幅が小さくなり、かかとの接地の仕方が変わり、足の運びが低くなるといった歩行の変化が起こります。こうした足への負担のかかり方の変化が、足の構造に影響する可能性があります。また、足の変形は、それ自体が転倒の危険を高めます。高齢の方では、足の病変があると転倒しやすくなることが知られており、足の健康は、転倒予防の観点からも見過ごせません。
3. 整理 — 二つを分けて考える
パーキンソン病と母趾の変形の関係には、性質の異なる二つがあります。
ひとつは線条体趾。神経由来のもので、外反母趾に似た見た目になることがありますが、原因は筋肉の異常な緊張やこわばりです。早期には動かせばただせることがあり、パーキンソン病の初発症状の側に現れやすい特徴があります。整形外科的な外反母趾と誤診されやすいことが、問題として指摘されています。
もうひとつは一般的な外反母趾。構造的なもので、加齢や合わない靴といった要因で起こります。パーキンソン病の患者さんは、合わない靴を履いている割合が高く、歩行やバランスの変化も加わるため、注意が必要な背景があります。
この二つは、対処の方向が異なります。線条体趾は神経の症状ですから、まずは神経内科で相談すべきものです。過剰な筋緊張をやわらげる治療などが試みられ、一定の効果が報告されていますが、研究データはまだ限られています。一般的な外反母趾は、靴の見直しや装具、痛みの管理、場合によっては整形外科的な対応が検討されます。
「母趾が曲がってきた」と感じたとき、それがどちらなのかは、見た目だけでは判断が難しいことがあります。自己判断で整形外科だけにかかったり、我慢して放置したりせず、まず神経内科の主治医に相談し、必要に応じて足を専門に診る医師(足病医)や整形外科と連携してもらうのが、遠回りに見えて確実です。
おわりに
外反母趾とパーキンソン病の関係は、「パーキンソン病だから外反母趾になる」という単純なものではありません。神経由来の変形が外反母趾に似た形をとる場合と、構造的な外反母趾が起こりやすい背景がある場合の、二つが重なっています。いずれにしても、足の変形は痛みを生み、靴を履きにくくし、歩行と生活の質に影響し、転倒の危険にもつながります。気になる変化があれば、早めに主治医に相談することが、足を守る第一歩になります。
次回予告|第3回「踏ん張る足を取り戻せ — 自宅でできるケア(動画つき)」
いよいよ改善の回です。外反母趾のテーピング、足指を”開く”運動、足指スペーサーなどの道具、靴の選び方、そして足裏を刺激して歩行を助ける工夫まで。世界から集めた、見て分かる動画とあわせて紹介します。
参考にした主な情報
・Ashour R, Tintner R, Jankovic J. Striatal deformities of the hand and foot in Parkinson’s disease(Lancet Neurology, 2005)
・Kumar S, et al. Striatal toe(Annals of Indian Academy of Neurology, 2013)
・Assessment of striatal & postural deformities in patients with Parkinson’s disease(Indian J. Med. Res.)
・Striatal Toe: Too Harmless to Treat?(2025)
・Novo-Trillo E, et al. Impact of Footwear and Foot Deformities in patients with Parkinson’s disease(Int. J. Med. Sci., 2021)
・Hallux Valgus(StatPearls, NCBI Bookshelf)
免責事項
本記事は、公表されている研究をもとにした情報提供を目的としています。症状の現れ方や足の状態は個人によって異なり、記載内容が万人に当てはまるとは限りません。ご自身の場合については、主治医にご相談ください。