― 手の震えの先に見つけた、新しい生きがい ―
長年使い慣れた手が、思うように動かなくなった。
最初は小さな違和感だったそれは、やがて日常のあちこちに影を落とすようになりました。
パーキンソン病と診断されたのは、定年を迎え、これからは穏やかに過ごそうと考えていた頃のことでした。
失われていく感覚への戸惑い
手の震え、動作の遅れ、体のこわばり。
若い頃なら気にも留めなかった動作が、ひとつひとつ難しくなっていきます。
「もう細かい作業は無理だろう」
そう思い込んでいた時期もあったと、彼は振り返ります。
できないことが増えるたびに、自信も少しずつ削られていきました。
ふと始めた、竹細工
転機は意外なところから訪れました。
知人に勧められ、何気なく手に取った一本の竹。
最初はうまく割ることもできず、編み目も不揃いでした。
それでも、竹の感触や香り、ゆっくりと形になっていく工程が、不思議と心を落ち着かせてくれたといいます。
急がず、力まず、手の動きに合わせて進める。
竹細工は、パーキンソン病のある自分の体と、自然に折り合いをつけられる趣味でした。
震える手でも、できることがある
手の震えはなくなりません。
調子の悪い日は、思うように作業が進まないこともあります。
それでも彼は言います。
「完璧じゃなくていい。不揃いなのが、味になる」
曲がった編み目やわずかな歪みも、手仕事の証。
むしろそれが、機械には出せない温かみになるのだと気づいてから、作品づくりが楽しくなりました。
竹を編む時間がくれたもの
竹細工を始めてから、生活にリズムが生まれました。
今日は少しだけ編む日。
今日は眺めるだけの日。
完成したかごや花入れを家族が喜んでくれることも、何よりの励みです。
「まだ自分にも、誰かの役に立てることがある」
そう思えることが、生きがいにつながっています。
病気があっても、人生は続く
パーキンソン病になったことで、確かに失ったものはあります。
しかし同時に、ゆっくり生きること、手を動かす喜び、今この時間を味わう大切さも知りました。
「病気は人生を奪うものじゃない。
生き方を変えるきっかけになることもある」
竹を編みながら、彼は今日も静かに自分の時間を重ねています。
その姿は、同じ病気と向き合う人にも、老いを迎えるすべての人にも、穏やかな勇気を与えてくれます。